盲目ブルースマンによる悲痛な叫び(がオリコンチャート入りしちゃった) Sleepy John Estes「スリーピージョンエスティスの伝説」
ブルースは悲しく、重く、物憂げな音楽ばかりではない。
思わず笑ってしまうような楽しいブルースもある。
可愛い女の子とお酒を呑みたくなるような都会的でお洒落なブルースもある。
しかし、ブルースの原点はやっぱりブルー(憂鬱)な気分を歌った音楽である。
本日紹介するスリーピージョンエスティスの「スリーピージョンエスティスの伝説」を聴くと改めてそう思うのだ。
ジャケットからもうブルースでないか。
汚れてクタクタになったスーツ。
抱えるギターのカポタスト(ギターのキーを変えるための器具)は鉛筆だ。
そして写真の背景は白人から押し付けらたかのようなドンズバな青色である。
白人「ブルースやし青色に塗ってしまおうっと笑」
(もともとは片目は見えていたが生活苦により全盲になった)
全盲といってもブラインドボーイフラー、ブラインドブレイクなど全盲のブルースマンは非常に多い。
その中でもエスティスのブルースが異質なのは全盲であることに対する苦しみを前面に打ち出していることだ。
その苦しみはA面1曲目の「ラッツインマイキッチン」からトップギアである。
盲目で稼ぎがないにも関わらず、ネズミ達に家の食料を食べられてしまう、という内容だ。
絞り出されるような声から紡ぎ出されるのは暗闇。
そこには一切の光もない。
相棒のハニーミクソンの泣きむせぶようなブルースハープがそれに追い討ちをかける。
たまにはこんなブルースに身を沈めるのも悪くない。
こうなったらウィスキー片手にどんどん沈みこもう。
ちなみにこのアルバムは日本でオリコンチャートに入るという快挙(?)を成し遂げている。
ブルースブームが背景にあったとはこんなサウンドがチャートインしてしまうというのは想像できない。
(お金がちゃんとエスティスの懐に入ったことを願うばかりです)
文章:菅原翔一