悩みで読書は加速する 水木しげる「戦争と読書」
人間は誰しも悩みを抱えて生きていく。
悩みのない人間なんていない。
人間はその悩みを解決するためにたくさんのものを作り出してきた。
その中の1つが本だ。
悩んでる時になんとなく開く本に救われたことが今まで何度あっただろうか。
悩みと読書は深い関係にあるような気がする。
昭和17年11月、出征を間近に控えた水木は悩む。悩みまくる。
画家だろうと哲学者だろうと文学者だろうと労働者だろうと、土色一色にぬられて死場へ送られる時代だ。
人を一塊の土くれにする時代だ。
時は権力の時代だ。独ソ戦を見よ。
大量に人を殺してしまふ。
戦争という個人の力ではどうしようもない悩みを前に水木は本を読む。特にニーチェを好んで読んでいた。
ニイチエは偉大なものだ。いつ読んでも感心させられてしまふ。恩人だ。実行するとか、いつまでも変らないとか言ふのは結局それをよく理解しなければ駄目だ。
寝ぼけ人生、ほんまに俺はアホやろかなどの水木しげるが漫画家として大成したあとのエッセイからは考えられない硬質で鋭い文章に驚かされる。
日記を書き続けるにつれて鋭敏さは増してくる。
水木しげるの価値観、というより物事を深く洞察する力はこの時期にほぼ完成したといっていい。
間違いなく悩みで読書は加速する。
文章:菅原翔一